特許権効力の図解

最終更新日:2019.7.3


特許権の効力

特許権者の立場からみた権利の効力の扱いと、第三者の立場からみた権利の効力の扱いについて。つまり、どうしたら侵害と言えるか/どうしたら侵害を免れるか。

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特許権者に保障される権利

出願人は、特許権設定登録を経て特許権者になります。そして、特許権者になると、

特許発明を内容とする物または方法を、営利であるか非営利であるかを問わず、事業として、製造、販売、使用等することは、あなたにのみ認められた権利です

ということが、国家機関によって保障されます。そして、もしも、それが破られることがあった場合に、差止請求および損害賠償請求によって問題を解決する権利が付随してきます。

 

どうしたら侵害になるか?

このように、「特許発明を内容とする物や方法を、営利・非営利を問わず事業として、製造等すること」が特許権者に保障される権利ですので、これを反対解釈することにより、「どうしたら権利侵害になるか?」が分かります。

すなわち、特許権侵害は次の4つの条件を満たすことで成立します。

  1. (権原のない)第三者が 
  2. 特許発明を内容とする物・方法を 
  3. 営利であるか非営利であるかを問わず事業として 
  4. 製造・販売・使用等する

 

特許権侵害にならないためには

ここで注意点として、特許権侵害は条件(1)~(4)の全てが揃うことで成立するのであって、4つの条件のうち、1つでも欠くならば特許権侵害になりません。したがって、第三者の立場としては、

このうち1つでも条件を外せば特許権を侵害せずに済む

ということになります。

多くの技術を搭載するデジタル製品で溢れる現代においては、技術者が自ら開発している物・方法が、どうしたら他人の特許権を侵害しないで済むかを把握することは重要です。そうしたケースを想定して、以下、4つの条件のそれぞれについて、 該当しない場合を説明します。

1.「(権原のない)第三者が」に該当しない場合

特別に特許発明の実施を許す旨のライセンス契約を締結する等して、特許発明を実施できる者(実施権者)になれば、「権原」があるということで、当該要件に該当しなくなります。

実施権には、特許権者すら特許発明を業として実施しない「専用実施権」と、特許権者も業として実施する「通常実施権」があり、どちらを選択するかは契約によります。

※先使用権など、法律の規定により実施権者になれる場合もあります

2.「特許発明を内容とする物・方法を」に該当しない場合

技術者が事業として物を製造したとしても、当該物が、他人の特許発明の構成要素のうち1つでも外していれば、当該要件に該当しません。例えば、他人の特許発明をベースに改良発明を考える場合があると思いますが、そういう場合でも、構成要素を外すことを考慮すべきです。

3.「営利非営利を問わず事業として」に該当しない場合 

技術者が特許発明に係る物を使用することになっても、それが事業ではなく、個人的に家庭で(例えば、ユーザとして)行ったのであれば、「事業」ではないため、当該要件に該当しません。

一方、事業で行うのであれば、そこから利益を出そうとしていなくても、当該要件に該当してしまいますので、注意が必要です。

4.「製造・販売・使用等する」に該当しない場合

製造販売など侵害であるとされている行為(特2条3項)、それとみなされる行為(特101条)をしなければ、当該要件に該当しません。

 

「専有地への無断立ち入り」

特許権侵害は、例えるならば、「専有地への無断立ち入り」と似ています。特許権で守られた場所は特許権者の「専有地」です。そこには、「関係者以外は立ち入ることができません」というプラカードが立てかけてあって、警備員が目を光らせています。

しかし、4つの例外に該当する場合には警備員に怒られません。具体的には、(1)ライセンス証(専用実施権・通常実施権)を持っている人は専有地に立ち入ることができますし、(2)プライベート(ユーザとしての家庭的実施)で用がある場合も立ち入り可能です。また、(3)当然ですが、専有地にいくら近づいたとしても、専有地の外にいれば警備員は警告してきませんし、(4)もし立ち入ったとしても、迷惑行為(製造・使用・譲渡等の実施行為)をしなければ警備員に怒られません。

 

侵害にならない、2つの例外

このように、ライセンスのない者が特許発明を事業として実施すると権利侵害になるというのが日本国特許法の原則ですが、主に2つの例外があります。

例外1:試験・研究としてする特許発明の実施

研究としてする実施に該当するかは、「業としての実施か/家庭的な実施か」とは別軸での論点です。つまり、ここでは、「業としての実施か/家庭的な実施か」にかかわらず、試験・研究としてする実施であれば、侵害になりません。但し、「試験・研究としてする」の文言解釈は少し難しく、事案によって学説も分かれているので、具体的事案への当てはめには留意が必要です。

例外2:特許権者等からの購入品

ライセンスのない者であっても、特許発明を内容に含む製品(特許製品と言います)を特許権者・実施権者から国内で購入した場合には、購入したそのものについては、使用・販売等を事業として行っても、特許権侵害にはなりません(※並行輸入は同列に議論できません)。

但し、そのものとは別に、新しく特許製品を製造して販売する行為(新しい製造とみなされる行為も含む)は特許権侵害になりますので注意して下さい。


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