出願公開の図解

最終更新日:2019.6.30


1年6月

特許出願すると、原則、すべての出願に対してされる「出願公開」。出願公開は平等に与えられたイベントというだけではなく、出願戦術の重要イベントでもある。

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出願公開とは…

特許出願をすると、出願日から1年6月の後、出願に係る発明の内容が世に開示されます。この開示を、出願公開といいます。ちなみに、特許の世界では、1年6月を「1年ろっかげつ」ではなく「1年むつき」と読みます。

 

権利内容の公示はある

審査を経て特許権が発生すると、「どんなことを事業ですると侵害なのか」を公示する必要がありますので、権利の内容を世に開示することになります。

しかし、そのタイミングは、発明がされてから随分と時間が経過してからになり、場合によっては10年近く経過した後になりかねません。

 

もし、出願公開がなかったら

もしも出願公開制度がなかったとしたら、出願から権利内容の公示までの随分と長い期間、第三者は、当該発明の存在および内容を知ることはできません。いわば、発明の存在と内容は、秘密状態にあります。

確かに、出願公開がなくても、最終的には権利範囲を了知できるのだから社会の混乱は生じません。

しかし、その秘密状態の期間中、多くの技術者が、それと同じような研究開発をするために金銭および時間を投資する可能性は否定できません。そして、先にされた出願について特許権が発生すると、他の者が研究開発のために投資した金銭および時間は十分に回収できずに終わります。

例えば、甲が発明Aについて特許出願をした後、乙が同じ発明Aを創出したとします。甲も乙も発明Aをするのに相当の研究、相当の金銭的・時間的な投資をすることになりますが、発明Aについて甲が特許権を取得すると、乙は事業として実施できません。そして、もしも出願公開がなかったとすると、乙は発明Aについて出願するだろうし、審査されてはじめて、実は出願すら無駄であったと気付かされるわけです(あまりに酷です)。

もちろん、技術者の個人的なレベルでみれば、研究開発の過程でスキル・ノウハウが蓄積されるため無駄ではありませんが、効率は良くありません。

 

重複投資の抑制を期待

さらに、世の中にそのような事例が多くなれば、技術の進展という点でも効率がよくないのは、火を見るより明らかです。

特許法の存在意義は、産業を発達させることです。それなのに、特許法が特許権という事業上の独占権を導入したことにより、技術者の金銭的・時間的な投資が無駄になってしまっては、本末転倒です。

そこで、特許法は、多くの技術者の間で同じような研究開発がされないよう、出願から1年「むつき」経過の後に、「このような発明がされているので、同じことはしないでね」と世の中に報知することとしています。

すなわち、特許法は、出願に係る発明の内容を公開すれば、それを同業者は、J-Platpat等の検索システムを使って、「自分の発明と同じ発明が出願されているか」と調査するであろうと期待し、それによって同じような研究が重複してされることを抑制しようとしています。これが、出願公開制度が設けられている理由です。 

 

原則は、2回の公報発行

このように、権利設定されるまでに、原則として公報が2回発行されます。

1回目は「研究開発で同じことに投資しないでね」という出願公開のための公開公報、2回目は「このような権利が設定されたので、事業で実施しないでね」という権利公示のための特許公報です。但し、早期に権利設定されたら1回目がないこともあります。

 

出願戦術の重要イベント

出願公開は、産業全体の最適化のために、単に自動的・受動的に起きるだけのイベントではありません。ある発明について特許出願をした者にとっては、「いつまでに改良発明・派生発明をすればよいか」を決定するための、出願戦術において重要なイベントです。

どういうことかと言うと、例えば、出願済みの発明(A1)が公開されると、その内容は刊行物等公知(参照:新規性)になりますので、出願公開の「後」に発明(A1)の改良・派生発明(A2)について出願した場合、自らの発明(A1)をもって進歩性が否定される可能性があります。

しかし一方で、改良発明(A2)を出願公開の「前」までに間に合わせるように出願すれば、少なくとも出願に係る(A1)によって否定される可能性を摘むことができます。

このように、改良発明・派生発明について出願するときには、基本発明の出願公開のタイミングは重要なイベントになります(但し、既に実施または論文発表等がされた場合には、それをもって公知になりますので注意してください)。

 

やっぱり、公開させたくない…

ところで、コンテンツ「審査請求の図解」において、出願したけれども権利化の必要性がなくなったときには審査請求せずに放置しておいてもよいと説明しましたが、

権利化しないのだから、発明を公開したくない

という要望もあるかもしれません。その場合には、公開前に、出願を取下げれば、発明の内容が世の中に開示されることを防ぐことができます。但し、出願公開を「確実に」回避するためのタイミングについては、慎重を期すことに留意したいです。

 

はっぱ64条

なお、出願公開は特64条に規定されています。出願公開される発明は、まだ審査請求すらされていないものが多く、将来的に特許権になれる玉と、出願公開でおわる石が混ざっている、とよく言われます。

一方、個人的には、将来的に「実」のなるものと、実ることなく「葉っぱ」で終わってしまうものが混ざっているとも表現できると考えています。そして、出願公開の段階では、全てが「葉っぱ」ですので、

葉っぱ=はっぱ=8×8=64条

という語呂合わせができます(弁理士試験にも有効!?)。

 

むすび

出願公開の概要は以上のとおりですが、国内優先権主張をしている出願である場合、公開のタイミングは出願日から1年6月プラスアルファである等の細かい規約もあります。

また、出願公開は、出願人にとっても出願戦術のための重要イベントですが、第三者にとっても、特許情報を分析して事業戦略を立案するための情報が増える機会にもなります。


9. 出願公開の図解