最終更新日:2019.7.1
拒絶理由…見た目とは裏腹に
「拒絶」という文言からして、とてもネガティブなイメージを抱くと思いますが、実はそうではありません。偏見抜きに拒絶理由を捉えると、そこには優しさが見えてきます。
- 4 min
その結果、「**要件を満たさないから、このままでは拒絶だな」と判断したとき、その出願人に対して、その理由と証拠(根拠)を通知します。これを、拒絶理由通知と言います。
「拒絶」というネガティブな文言と、「理由」という厳格な響きから、この通知に対して、審査官と敵対しているかのような印象しか抱かないかもしれませんが、必ずしもそうではありません。少し見方を変えると、「審査官が協力してくれている/助けてくれている」というようにも見えます。
なぜならば、当該通知の実体は、「現状の請求項のまま放置しておくと拒絶になりますので補正しませんか?意見しませんか?」という手紙だからです。
実際に、拒絶理由通知の書面を見てみると、冒頭には、下図に示すような文面(水色の下線とオレンジ色の下線)が書かれています。
「拒絶をすべき」とか「通知書」などと不愉快な文言は記載されていますが、この文面の真意は、
『請求項の発明に特許を付与するには所定の問題があって、このままでは、審査官としては拒絶査定としなければならなくなります』
と審査結果を伝えたうえで、
『ですが、いきなり拒絶だ!とは言いません、請求項の発明を補正するチャンスがありますし、意見することも可能なので書面で連絡下さい』
ということなのです。
水色の部分は審査結果を伝えるだけの無機的な文章ですが、オレンジ色の部分は、いきなりは拒絶で確定させませんという優しさとも言えます。つまり、拒絶理由通知の半分はやさしさ…です。
(クリックして拡大)
拒絶理由が書かれた手紙に対しては、補正した請求項および意見をもって、返信することができます。
そして、返信を受け取った担当審査官は、返信の内容に基づいて再度の審査をしてくれます。再審査の結果、拒絶理由が未解消である場合には…残念ながら拒絶です(まだ特許になる途はありますが)。
一方、先の手紙で通知された拒絶理由が補正により解消済となれば必ず特許査定か!?というと答えはNOです。なぜなら、先の手紙で通知された問題は解消されても、補正によって別の拒絶理由が生じるかもしれないからです。
知財専門家がエンジニアに補正・意見の方針を説明するとき、「これで拒絶理由が解消されます」とは言いますが、「これで特許査定をもらえます」とは言わないのは、そのためです。
担当審査官とのやり取りの結果、「前に通知した問題は解消されているし、改めて審査したけれども拒絶する理由は見当たらない」と審査官が判断してくれると、晴れて特許です。
このように、特許になるための条件は「拒絶する理由が見当たらない」と審査官に判断してもらうことです。時折、「特許になるための要件とは何でしょうか?」という質問を受けますが、特許になるための要件が用意されているわけではなくて、特許できない理由(=拒絶理由)が用意されていて、それを含まなければ特許になるという構造になっているのです。
高周波の電気回路を例にとってみれば、拒絶理由とは「周波数フィルター」のようなものです。
広帯域に渡って周波数成分を有する信号が入力(特許出願)されても、新規性というハイパス・フィルター(低いものは通さない)というハードルが待ち構えていて、それを超えると、さらに厳しい進歩性というハイパス・フィルターが待ち構えています。また、それらとは別の観点から、実施可能要件に違反するか等といったフィルターも待ち構えていて、それら全てのフィルターを通過した周波数成分だけが、見事に「特許」として出力されます。
本コンテンツでは、拒絶理由通知の超・基本的な概念だけを紹介しましたが、実は通知の種類も1つではなく、通知されるか否かの判断、および通知される時期も非常に複雑です。ですが、いきなり拒絶査定とはならないことだけでも知っておけば、審査請求するときに「請求項の記載をどうするか」について少し余裕をもって判断できるのではないかと思います。