抽象化の着地点を何処に置く

特許出願の書類作成における知財専門家の作業を一言で表現すると、「概念の具体化と抽象化」であり、「抽象化の着地点を何処に置くのか」が腕の見せ所であると思っています。



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特許出願の書類作成に当たり、知財専門家は、まず、発明の核となる部分を把握し、その上で、権利書面(特許請求の範囲)などの書類を作成します。

その過程で知財専門家が行う作業を一言で表現すると、「概念の具体化と抽象化」であると、私は思っています。その過程とは、私見ですが、以下の1~4のステップを含みます。

  1. 発明の核を把握するため、発明者に対し、発明の全体像(ex. システム構成等の具体的な概念)をインタビューします。抽象的な概念で会話を終わらせず、具体的な内容に踏み込みます。システムに含まれる複数の構成要素の其々を切り分け、課題解決に資する構成要素aを抽出するためです。
  2. 構成要素aの抽出後、具体的なシステムを抽象化することで、課題解決の共通性を考慮しながら構成要素aを適用できる範囲、すなわち発明の範囲を広げます。
  3. 抽象化されたシステムにおいて、課題解決のために構成要素aと関わる構成要素bを抽出し、権利書面に記載する構成要素を揃えます。
  4. 構成要素aを抽象化した表現、及び、構成要素bを抽象化した表現を用いて、権利書面を作成します。係る場合、構成要素a及びbそれぞれを何処まで抽象化するかは、進歩性及び明確性等の観点から、別個に考えます。

このように特許出願の書類作成の過程では、概念を具体化と抽象化との間で行き来させているのではないかと思います。

そして、最終局面において、構成要素ごとの具体的表現と抽象的表現の緩急の付け方をどうするのか、換言すれば、構成要素ごとの「抽象化の着地点」を何処に置くのかという思案こそが知財専門家の腕の見せ所ではないかと、私は考えています。

このような考えに至ったきっかけを与えてくれたのは、「具体と抽象」(細谷功 著)です。当該本の1章22頁に、「具体⇔抽象という関係は、相対的に連続して一体となって階層的に存在する」という説明がありますが、この一文は、抽象/具体という軸上において文言の座標点を何処に置くかは自由である一方、何処に置くかによって表現できる範囲と文章の明確性は繊細に影響を受けるため慎重に行わなければならないことを端的に説明しており、その主旨は、権利書面(特許請求の範囲)の性質にも通じるものと感じさせてくれます。

なお、当該本は当該図説を軸に抽象化思考の重要性を説いており、例えば、会議にも有用な事柄が説明されております。お薦めです。



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