特許リスク調査をしていたら、他人の基本特許権がみつかりました。しかし、存続期間が残り1年もありません。来年になったら、特許権の存続期間が切れるから、事業で自由に使って問題ないということで宜しいですよね?ちなみに、その基本特許権の発明の技術分野は機器制御に関するものです。
弁理士からの回答
法理論としては、存続期間のきれた権利は事業でも実施できると言えます。しかし、実際の事業活動において、基本特許権Aがきれたから早速その発明を使った装置等を事業で販売することに何らリスクはないとは言い切れません。
例えば、基本特許権Aの内容が「(イ)及び(ロ)を備える〇〇装置」であった場合、権利Aの存続期間が切れたら、(イ)(ロ)は実施できます。しかし、もしも(イ)(ロ)(ハ)という利用発明も併せて他人が特許権をもっていて、(イ)(ロ)(ハ)を含む製品を事業で販売したら、その権利を侵害することになります。
ですから、基本特許権A「(イ)(ロ)を備える…」が満了したからといって、実際の事業においては、(イ)(ロ)を含む発明を自由に実施して問題ないとは言い切れません。つまり、特許請求の範囲は、製品・技術の設計仕様ではないということです。
なお、事業で(イ)(ロ)(ハ)等の製品を製造販売したいと思ったときに、仮にそれに相当する特許権が見つかっても、ただちに実施を諦めるのではなく、無効審判を考えたり、権利範囲を回避することができるか否か等も検討するべきです。但し、その際には、均等論などの法理論も考慮する必要性もありますので、知財専門家に相談するのがよいと存じます。
回答の詳細な説明
機器制御の分野ならば、特許存続期間が20年を超えることはありませんから、「その権利については」実施できると言えます(末⽇は出願⽇の翌⽇起算で算出します)。
「その権利については」と断っているのは、法理論としては確かにそうだけれども、実際の事業活動において、基本特許権Aがきれたから早速その発明を使った装置等を事業で販売することに何らリスクはないとは言い切れないからです。
具体的に説明しますと、基本特許権Aの内容が
請求項X:(イ)及び(ロ)を備える〇〇装置
であったとします。請求項に「備える」という言葉がありますが、この「備える」というのは「少なくとも含んでいる」という意味です。したがって、特許権Aを存続しているときには、(イ)及び(ロ)を含みさえすれば権利Aの効力が及ぶ、という解釈になります。
例えば、
- (イ)(ロ)のみ
- (イ)(ロ)(ハ)
- (イ)(ロ)(二)
- (イ)(ロ)(ホ)
- (イ)(ロ)+公知技術
など、「(イ)(ロ)」を含んでいれば、何でも権利Aの効力が及びます。
その後、権利Aの存続期間が切れると、権利Aとしての効力は失われます。そうすると、上記の例示列挙のうち、
- (イ)(ロ)のみ
- (イ)(ロ)+公知技術
については、事業で実施することにリスクはないと言えます。しかし、
- (イ)(ロ)(ハ)
- (イ)(ロ)(二)
- (イ)(ロ)(ホ)
については、留意が必要です。というのも、これら3つについては、もしかしたら特許権が他にあるかもしれません。権利Aが存在しても、「(イ)(ロ)(ハ)」なども、基本的には利用発明というものとして、併存しうるからです。
実際に事業で製造販売する商品は、(イ)(ロ)だけで完成しないと思います。大概の場合、(イ)(ロ)だけではなく、プラスアルファの機能が搭載されます。最終的に、製品が(イ)(ロ)(ハ)を含むこともありえます。
そして、もしも仮に、(イ)(ロ)(ハ)について他人が特許権をもっていたら、それを実施することは、その権利の侵害行為になってしまいます。
特に、基本特許権Aを持っている者は、それが権利者にとって重要なものであるなら、応用発明として「(イ)(ロ)(ハ)」の特許権も併せてもっている可能性も十分にあります。
ですから、基本特許権A「(イ)(ロ)を備える…」が満了したからといって、実際の事業においては、(イ)(ロ)を含む発明を自由に実施して問題ないとは言い切れません。
このことを一言でいうと、
特許請求の範囲は、製品・技術の設計仕様ではない
ということです。請求項は、明細書に挙げた技術的課題を解決するための必要な要素は含まないといけませんが、請求項に記載された構成要素だけで製品・技術が完成されなくてもよいのです。
なお、事業で(イ)(ロ)(ハ)等の製品を製造販売したいと思ったときに、仮にそれに相当する特許権が見つかっても、ただちに「製造販売できない」と即決して、諦める必要はありません。例えば、その特許権が、実は新規性等の要件を満たしていなかったという場合には、無効審判を請求することで、その発明を自由に使うことができるようになります。
また、権利範囲を回避することができるか否か等も検討したほうがよいです。その際には、均等論などの法理論も考慮する必要性もありますので、弁理士等の知財専門家に相談するのがよいと存じます。